光干渉法による膜厚測定

膜厚と干渉ピークの関係に関する詳細解説

1. 光干渉法の基本概念

光干渉法は、薄膜の膜厚を高精度で測定するための技術であり、主に分光光度計を用いた光学的手法に基づいている。薄膜に光を入射させ、その反射光の干渉パターンを分析することで、膜厚や屈折率を決定する。

1.1 干渉の基本メカニズム

薄膜に光が入射すると、以下の2つの主要な反射光が発生する:

  • 膜表面での反射(R1): 入射光が膜の上面で反射する。この反射は、膜とその上に存在する媒質(通常は空気)との界面で発生する。
  • 膜内部での反射(R2): 光が膜を透過し、膜と基板(金属など)との界面で反射する。この反射は、膜の下部界面で発生する。

これらの反射光が干渉し合い、特定の波長で強め合ったり弱め合ったりする干渉パターンが生成される。この干渉現象は、膜厚や屈折率を決定するための基礎データとして利用される。

2. 干渉パターンと膜厚の関係

2.1 光路差(OPD)と干渉条件

干渉の程度は、反射光の光路差(Optical Path Difference, OPD)によって決まる。光路差は、膜の厚さ dd、膜の屈折率 nn、入射角 θ1\theta_1、膜内での光の角度 θ2\theta_2 に依存する。光路差の計算式は次のように表される:

OPD=n2(dcosθ2)n1(2dtanθ2sinθ1)OPD = n_2 \left( \frac{d}{\cos \theta_2} \right) - n_1 \left( 2d \cdot \tan \theta_2 \cdot \sin \theta_1 \right)

ここで、

  • n1n_1 は上層の屈折率、
  • n2n_2 は膜の屈折率、
  • dd は膜の厚さ、
  • θ1\theta_1θ2\theta_2はそれぞれ入射角と膜内での光の角度。

スネルの法則を用いると、

n1sinθ1=n2sinθ2n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2

光路差を求めるためには、この式を考慮し、最終的には次のようになる:

OPD=2n2dcosθ2OPD = 2n_2 d \cos \theta_2

干渉のピークが形成される条件は、光路差が光の波長の整数倍または半整数倍であることであり、次のように表される:

2n2dcosθ2=mλ2n_2 d \cos \theta_2 = m\lambda

ここで、λ\lambda は光の波長、mmは整数である。この条件を満たすと、干渉ピークが形成される。

2.2 膜厚の増加とピークの増加

膜厚が増加すると、干渉パターンにおけるピークの数が増加する。理由は以下の通りである。

  • 光路差の増加: 膜厚が増加すると、光が膜を通過する距離が長くなり、光路差も増加する。光路差が増加すると、反射光の干渉パターンにおけるピークと谷の間隔が狭くなり、より多くのピークが現れる。

  • 干渉条件の多様化: 膜厚が増加すると、干渉条件がより多くの整数 mmに対応するようになる。膜厚 dd が増加することで、より多くの整数 mmがこの条件を満たすため、干渉パターン内のピークの数が増加する。

  • 干渉縞の密度: 膜厚が増加すると、干渉縞の密度が高くなる。これは、膜厚が増すことで干渉パターンの周期が短くなり、同じ波長でより多くのピークが膜内に現れるためである。

 

※干渉の周期と膜厚

膜厚 ddが波形の周期にどのように影響するかを理解するためには、干渉パターンのピーク間隔、すなわち干渉の周期を考える必要がある。干渉のピーク間隔(つまり干渉の周期)は次の式で求められる:

Δλ=λ22ndcosθ\Delta \lambda = \frac{\lambda^2}{2nd\cos\theta}

ここで、Δλ\Delta \lambdaは干渉のピーク間の波長の差だ。

この式から分かるように、膜厚 ddが大きくなると Δλ\Delta \lambda が小さくなり、干渉パターンの周期が短くなることがわかる。つまり、膜が厚くなると、干渉スペクトルのピークがより密に配置されるようになる。

2.3 干渉パターンの視覚的変化

膜厚が増加すると、反射スペクトルのピーク間隔が広がり、ピークの数が増加する。このため、光学的な干渉パターンはより複雑になり、ピークが増加する。

3. 光干渉法の実用的な応用

3.1 大塚電子の技術

大塚電子では、光干渉法と自社製高精度分光光度計を用いて、非接触・非破壊かつ高速・高精度な膜厚測定を行っている。この技術により、膜の厚さを数ナノメートル単位で高精度に測定することが可能である。

3.2 解析手法

光干渉法には、以下の解析手法が用いられる:

  • ピークバレイ法: 反射スペクトルのピークと谷を特定し、膜厚を推定する方法。ピークの位置を高精度に測定することで膜厚を算出する。
  • 周波数解析法: 干渉パターンの周波数成分を解析し、膜厚を推定する方法。
  • 非線形最小二乗法: 反射スペクトルのモデルと実測値との誤差を最小化することで膜厚を推定する手法。
  • 最適化法: 反射スペクトルと理論的なモデルを最適化し、膜厚を求める手法。特に複雑な膜構造に対して有効である。

まとめ

膜厚が増えると干渉ピークが増加する理由は、光路差の増加により干渉条件が多くなるためである。膜厚が波長の整数倍や半整数倍に対応する干渉条件が増えることで、干渉パターン内のピークの数が増加する。光干渉法は、高精度な膜厚測定を実現するための強力な技術であり、非接触・非破壊での測定が可能である。この測定法を用いることで、膜の厚さや屈折率を正確に評価し、様々な産業分野で応用されている。