回折格子

回折格子の概要と原理

回折格子とは

回折格子は、光やその他の波動を回折させるために設計された光学素子であり、格子状の周期的なパターンを用いて干渉縞を形成する。一般的に直線状の凹凸がマイクロメートル単位の周期で並んでいる。回折格子の周期や材質、パターンの厚みなどは、用途や使用する波長域に応じて異なる。物理学や化学の分野では主に分光素子として使用されるが、その他の用途にも応じて様々な設計が存在する。例えば、CDの読み取り面に見られる虹色の現象も回折格子によるものであるが、CDのケースでは回折を利用して情報を読み取るわけではない。

回折格子の原理

回折格子の基本的な原理は、光が周期的な構造に当たることで発生する干渉現象に基づいている。光が回折格子に入射すると、格子の周期に依存して異なる方向に回折し、干渉縞が形成される。

回折条件

回折格子における回折の条件は次の数式で表される:

d(sinα+sinβ)=nλd(\sin \alpha + \sin \beta) = n \lambda

ここで、

  • ddは格子の周期
  • α\alpha は入射角
  • β\betaは回折角
  • λ\lambdaは波長
  • nnは回折次数

この式は、光の回折において強め合う条件を示しており、特定の波長の光が特定の角度で強め合うためにはこの条件が満たされる必要がある。

干渉縞の形成

回折格子で観察される干渉縞の周期 DDは、格子周期 ddと格子からスクリーンまでの距離 LL に依存する。次の式で表される:

D=λLdD = \frac{\lambda L}{d}

この式から、干渉縞の周期は格子周期の逆数と格子からスクリーンまでの距離に比例することがわかる。つまり、格子周期が小さく、観察場所が格子から遠いほど干渉縞の周期は大きくなる。

フレネル回折とフラウンホーファー回折

回折の条件はフレネル回折領域とフラウンホーファー回折領域で異なる。フレネル回折では、干渉縞の周期が格子周期とほぼ同じサイズになる一方、フラウンホーファー回折領域では干渉縞の周期が格子周期の逆数に比例する。

回折格子の設計と種類

平面型回折格子

平面型回折格子は、平面ガラス板に溝を刻んだもので、金属蒸着やフォトリソグラフィ技術を用いて製作される。透過型と反射型の2種類がある。

  • 透過型: 光が透過して回折が起こる。
  • 反射型: 光が反射して回折が起こる。反射型回折格子は一般的に使用される。

凹面型回折格子

凹面型回折格子は、球面形の凹面に溝を刻んだもので、反射された光で回折が起こる。凹面型は分散型回折格子としても使用され、ローランド円の上に入射スリットと検出器を配置することが一般的である。

ブレーズド回折格子

ブレーズド回折格子は、溝の角度を制御することで特定の波長領域の回折光のエネルギーを強めることができる。ブレーズ角は、格子の回折性能を調整するために使用される。

回折格子の製造法

機械刻線

ダイヤモンドカッターなどで格子を機械的に刻線する方法で、高精度な製造が可能だが、量産には限界がある。

リソグラフィ

フォトリソグラフィ技術を用いて、精密な格子パターンを基盤材料に形成する方法で、量産性に優れ、多くの工業製品に使用される。

レプリカ回折格子

リソグラフィで作成したマスターからプラスチック製のレプリカを作成し、これをガラス板に貼り付けて金属を蒸着させる方法で、コスト効果が高いが、精度はリソグラフィに劣る。

ホログラフィック回折格子

ホログラフィ技術を用いて感光性物質にパターンを露光し、屈折率の変化を利用して回折格子を作成する方法で、高精度な製造が可能で、特定の波長域に対応できる。

回折格子の歴史と自然界での例

回折格子の歴史は、18世紀にアメリカの自然科学者デビッド・リッテンハウスが髪の毛を用いた格子で始まり、その後19世紀にはヨゼフ・フォン・フラウンホーファーが金属細線を用いた回折格子を製作し、多色光の分析に用いた。

自然界における回折格子の例は少ないが、構造色を示すクモの巣や蝶の羽などが回折格子としての役割を果たしているとされる。ただし、これらは薄膜干渉によるもので、回折格子の本質的な機能とは異なる。

回折格子の素材

ガラス

ガラスは回折格子の基盤材料として一般的に使用され、特に光学的に安定した透明なガラス(酸化鉛ガラスや石英ガラスなど)が用いられる。

  • 透過型回折格子: 光がガラスを透過するため、主に透過型回折格子に使用される。
  • 加工性: 精密な溝刻みが可能で、製造が比較的容易である。

金属

金属は回折格子の表面にコーティングや蒸着によって使用され、主にアルミニウムや銀が用いられる。

  • 反射型回折格子: 光が金属面で反射するため、反射型回折格子に使用される。
  • 高反射率: 光の反射率が高く、特にUVから可視光、IR領域まで広い波長範囲に対応する。

プラスチック

プラスチックは軽量で加工が容易なため、低コストの回折格子製品に利用される。特にアクリルやポリカーボネートが使われる。

  • 製造法: 成型や印刷による大量生産が可能である。
  • コスト: 相対的に安価で、教育や簡易な分光測定装置に適している。

セラミック

セラミック材料は耐熱性が高く、特に高温環境での使用に適している。

  • 耐久性: 高温や化学薬品に対して強い耐性がある。
  • 精度: 高精度な加工が可能で、特殊なアプリケーションに使用される。

ホログラフィック材料

ホログラフィック材料は、光を干渉させることで回折格子のパターンを記録する方法で作られる。感光性の高い材料が用いられる。

  • 高精度: 高解像度で複雑なパターンの形成が可能である。
  • 用途: 特定の波長や角度に対応する高精度な回折格子が製作できる。