この記事では酸化還元電位について記載する。
銅は酸素で酸化され触媒系(Cu2+が一電子酸化し、Cu+が生成され、酸素でCu2+が再生成される)が回るが、鉄(Fe3+が一電子酸化し、Fe2+が生成され、酸素でFe3+が再生成される)はなぜまわらないのか、酸化還元電位を用いて説明しよう。
まず、酸化還元電位(還元電位)は、化学反応における酸化剤と還元剤の間で電子がどれだけ容易に移動するかを示す指標だ。これは、電極電位とも呼ばれ、標準水素電極(SHE)を基準にして測定される。
酸化還元電位の定義
酸化還元電位は、半反応での電位差を表し、電子がどれだけ「自発的に」移動するかを示す。電位が高いほど、物質は他の物質を酸化しやすく、電位が低いほど、物質は他の物質を還元しやすい。
酸化還元電位の測定
酸化還元電位は、通常、電位差(V、ボルト)として表され、基準電極として使用される標準水素電極(SHE)を基準にする。反応式で表される場合、半反応は以下のように書かれる。
例:
この反応に対応する標準還元電位は +0.77V (SHE) である。
酸化還元電位の重要性
酸化還元電位は、多くの化学プロセスにおいて、反応の方向や速度を決定する要因だ。例えば、電子がどのように移動するか、どの物質が酸化され、どの物質が還元されるかは、この電位によって決まる。
酸化還元電位と酸素
酸素の標準還元電位は +1.23V であり、これにより酸素は非常に強い酸化剤であることがわかる。鉄や銅などの金属の酸化還元サイクルでは、酸素の酸化還元電位が関与するため、その再酸化プロセスが異なる。
銅と鉄の触媒サイクルの違いについて
銅は酸素により効率的に酸化されるため、Cu²⁺/Cu⁺のカップルを用いた触媒サイクルが回りやすい。一方で、鉄のFe³⁺/Fe²⁺カップルは酸素による酸化が効率的に行われにくいため、同じような触媒サイクルが回りにくい。この違いは、それぞれの酸化還元電位の違いによって説明される。
酸化還元電位
- 酸素(O₂ + 4H⁺ + 4e⁻ → 2H₂O): +1.23 V
- 銅(Cu²⁺ + e⁻ → Cu⁺): +0.153 V
- 鉄(Fe³⁺ + e⁻ → Fe²⁺): +0.77 V
銅の場合、酸素の酸化還元電位 (+1.23 V) は銅のCu²⁺/Cu⁺カップルの電位 (+0.153 V) よりも大きいため、酸素はCu⁺を容易にCu²⁺に再酸化できる。これにより、酸素が銅の酸化還元サイクルを効率的に駆動することができる。
一方、鉄の場合、酸素の酸化還元電位はFe²⁺/Fe³⁺のカップルの電位 (+0.77 V) よりも高いものの、銅ほどの大きな差がないため、酸素による鉄の酸化が効率的に行われにくい。そのため、鉄を基にした触媒サイクルは効率的に回りにくい傾向がある。
鉄が配位子を持つとサイクルが回る理由
鉄に特定の配位子を加えることで、鉄の酸化還元電位が変化し、酸素による再酸化が促進されることがある。配位子が鉄の電位をより酸素の酸化還元電位に対し下げることで、触媒サイクルが回りやすくなることがある。
鉄と配位子を用いた触媒サイクルの例
鉄にシアニドイオン(CN⁻)を配位させたフェリシアン化鉄などが有名だ。シアニドイオンは強いπ受容体であり、鉄の酸化還元電位を変化させ、酸素による再酸化を効率的にする。また、鉄-配位子複合体を利用した酸素による酸化反応は、様々な有機合成の場面で使用されていることが知られている。
フェリシアン化鉄(鉄シアニド錯体)の酸化還元電位は、通常の鉄イオンと比べて異なる。具体的には、以下のような酸化還元電位が知られている:
- **[Fe(CN)₆]³⁻ / [Fe(CN)₆]⁴⁻**の酸化還元電位: +0.436 V (vs. SHE, Standard Hydrogen Electrode)
この酸化還元電位は、鉄単体の酸化還元電位である Fe³⁺/Fe²⁺ (+0.77 V) よりも低いことが特徴だ。これにより、シアニドイオンが鉄に配位することで、鉄の酸化還元電位が変化し、酸素による再酸化がより効率的に行われることが期待される。
以上、酸化還元電位を用いた説明をまとめてみた。